utsurobune’s diary

短歌を発表してます。

一人百首:47

話術というものにも色々方法がある。マシンガントークを連発する人もいれば聞き手に周り相手の話をぐいぐい引き出すという人もいる。僕の場合は瞬間的な合気道といってもいいだろう。先陣切って話すことは少ない。相手の話を聞きつつ、ここぞというタイミングで上手い返しを放つというものだ。ただ上手くいくことは少ない。3時間後くらいにこういえばよかった・・と言うものが思いつくものの、そこには胴着はない。しかたなくパントマイムするのみである。

沈黙は金である。基本的に人気のある人は話を聞くことができるひとである。自分の話ばかりする人は子どもっぽいと思われる。ただあまりに喋らないと人見知りなのかなと思われるので適度にしゃべりなさい。

ハイデッガーという人がこんなことを言ったと言う。「人間は不安の中に浮かんでいる。その不安が時として言葉を黙させる。そして沈黙と同時にいっさいの所在物が遠ざかり、かわって無が立ち現れる。人々はただとりとめもないおしゃべりでその静けさを打ち破ろうというのだ」つまり不安から無言が生まれるから、それを他愛ないおしゃべりで打ち破ろうということだろう。不安に真っ向から立ち向かうのもいいが僕みたいなタイプは他愛ないおしゃべりも好きだ。

 クリックすると新しいウィンドウで開きます

今まで見た映画の中で一番好きなシーンが、タランティーノの「パルプ・フィクション」の1シーンである。タランティーノの作風はかなり独特で、作品の中にどうでもいい無駄話をたくさん織り交ぜるというものだ。マドンナのライク・ア・ヴァージンはこんな意味で・・みたいな。これまでの映画の中ではあらすじに関係ない話はいれてはいけない、というものがよしとされてきた。この作風を作ってから全国でそのフォロワーが増加した。監督自身もおしゃべりだ。インタビュー動画を見てみると話術の巧みさがよく分かる。高い声のインタビュアーに「ピクサーの声優にならない?」といったり、インタビューの最後に映画監督の友達が挙げる注目している監督リスト10人を挙げたり、と。

その中の1シーン。主人公はギャングの下っ端。今回の任務はボスのセクシーな妻、ミアを世話すること。この任務に成功するとボスから信頼がおける相手であると認められる。しかし妻と浮気したことが分かるとビルの屋上から放り投げられる。という話を同僚から聞く。デート本番。映画をモチーフにしたレストラン。最初は打ち解けて話していた二人に気まずい沈黙がふと訪れる。気まずい沈黙が楽しめる人は愛し合える人だ、とミアは言う。たった一回食事しただけで?と主人公は答える。ミアがトイレに行ってくる間に話を考えておいて、という。トイレでコカインを吸引するミア。トイレから戻ってきてハンバーガーを食べる彼女に主人公は同僚から聞いた噂話を言う。私が浮気したっていうの?と笑って言うミア。あわてて弁解する主人公に、私は否定も肯定もしていないわよ、というミア。レストランで開かれるツイストコンテスト。出場して優勝し、家に戻ってくる二人。抱きしめ合う二人。ミアが言う。「これも気まずい沈黙?」「さぁ?」この後の展開も大好きだ。しゃべり芸が特徴のタランティーノ映画で(たぶん)唯一「沈黙」が扱われたシーンだ。現在タランティーノと映画プロデューサーはミアを演じたユマ・サーマンにセクハラに関して問題となっている。ファンとしては複雑な気持ちだ。

大学時代に好きな人と晩御飯を食べる機会があった。数人で食べるときはわいわい話せるものの、一対一で向かい合って食べるとなると話す内容もなくなってくる。まさに気まずい沈黙が流れる。その後はただただその人のジャニーズwestにどんな風に殺されたいか、といういかれたトークを聞くことになった。

www.youtube.com

君といる ときだけ時が 流れていて 他は眠ってる 2月の洞窟