一人百首:10
高校生の頃、大学の受験で小論文を書く試験があった。日曜日にわざわざ学校に行った。送ってもらった母親と別れ、教室へ向かう。たしか12月ごろで、教室の中が寒かったのを覚えている。
前日に作ってもって行ったレポートのほとんどにダメ出しがでて、教室の中で一人で考える。が、全然文章が思いつかない。時間がせまる。焦る。この大学は自分にあっていないんじゃないかと思う。クラスメートの中で自分が進路が決まっていないということにさらに落ち込む。
昼休みなのでご飯を食べてくるようにといわれる。食堂で昼ごはんを食べる。大きなホールの中で一人で食べた後、自販機に立ち寄る。
食堂の横にある自販機への廊下を歩いていると廊下の真ん中に、
つぶれた虫の死骸があった。
大学時代新聞部に所属していた。新聞部と言っても正式な部活ではなく自分以外は二人しか部員はいなかった。その二人と自分と顧問の先生で集まり、どのような記事にするか決めるが、やたらと厳しい先生にいつも怒られていた。自分以外の部員の二人は付き合っていて、いつも出席しないで自分とその先生との二人で会議をしていた。
新聞部ではある人に取材に行き、それを基に文章を書いて先生が訂正する、というパターンになっていた。土曜日に取材が終わる。締め切りは月曜だ。その日のうちに書いてしまおうと思うのだが、隣の県まで取材に行った帰りでそのまま寝てしまう。
次の日の日曜日、今日こそ記事を書いてしまおうと思ったが、パソコンを前にしてwordを立ち上げてみたものの、全然文章がでてこない。深夜になってもうどうでもいいやーって気になってしまい、明日の授業の入ってない時間帯に書こうと思い寝てしまう。
月曜日の朝。思ったより起きるのが遅い。書けない。授業の時間になる。授業が終わる。書けない。先生に原稿を見てもらう前の時間になる。書けない。
また怒られるなぁ、、、という気持ちで歩く。教室は外についている階段を上った3階だ。踊り場でどんよりする。
取材するために書いたメモを開く。せめてどんな取材だったかを先生に教えねば、、、と開いたメモを見てみると
小さな虫がしゃしゃしゃしゃと動いていた。
このことから察するに、僕の人生では文章に関する締め切りが書けないでどんよりした気分になったときに、虫がやってくるのだろう。
「日常」という漫画で女の子が打ちひしがれたときに犬がやってきて肩に手を置くというネタがあるが、虫を見てもへこむだけである。
今僕の部屋ではカーテンが引かれているが、自分の中で設定した締め切りである10時をすぎても今日書く内容が決まらない僕の基に窓一面に広がったヨナグニサンが来ていることは言うまでもない。
壁ドンを された壁の横 寄り添えば 誰もいないな ほのぐらい夜