一人百首:30
両親がビートルズ好きである。そのおかげで移動中の車内のBGMがずっとビートルズってことも多かった。両親は子供向けにと思ったのだろう。ビートルズが題材のアニメ、イエローサブマリンというものを見る会、というのが定期的に開かれた。
ただしこのアニメ、童話調ではあるが完全に大人向けである。別に過激というものではないが、かなりサイケデリックな色調だったりするのだ。ヒッピームーブメント全盛の頃の大人であれば かなり美的に含蓄垂れることもできるだろうが、妙に不安定でシュールな内容を見てると妙に怖かった。
映画の中でBGMとしてビートルズの曲がかかる、というものなのだがその中の1曲にnowhere manという曲がある。もともとビートルズが出していた曲が映画の中で歌われているわけだが、作品の中ではジェレミー
こいつに向けて歌われた曲となっている。チキンナゲットみたいな見た目の彼が渡した名刺にはヒラリー、ブーブ、フッドとさまざまな名前が書いてある。何者なのかと尋ねられた彼は物理学者、古典学者、植物学者、風刺詩人、ピアニスト、歯医者(音の響きで似た言葉)と答える。何者でもないのだ。
かなしい曲といわれているこの曲だが、曲調のせいか歌詞が問いかけているからか、どこか温かみのある曲になっている。邦題では「ひとりぼっちのあいつ」となっているがそれだとロンリーマンでいいわけだ。
大学時代にネットを通じて知り合った友人がnowhere man、ジェレミーにそっくりなやつだった。僕はインターネットを通じてラップをあうるグループにいたことがあるが、その中の一人が法学部出身で英語をしゃべり、ラップでは今自分が見ている油絵の感想を言い、話になると聞くということを一切せずに自分の言葉で演説のように出鱈目を言うのであった。彼と二人で話すと、子供たちへのラップ教室として教えてあげて、それでお金を集めて儲けよう!とかアイディアだけはぽんぽん出すのであった。
周りのやつもアイドルになる!とインスタグラムに書いた次の日にロックバンド目指しますといって最終的に彼女との写真のっけたりするそんなやつらばっかりだった。映画で言えば「何でも屋の俗物」である。そんな彼らとインターネットという“どこにもない”場所で話していたのであった。
僕もブログではうつろぶねだが、本名のほかにラッパーの名前、ラジオネームといろんな名刺を持っている。そんな僕が何でも屋を廃業し、就職活動をした時のこと。面接官に聞かれた質問が「あなたを一言で言うと何ですか?」であった。
僕は答えられなかった。
He's a real nowhere man.彼は本当にどこにもいないようなやつさ。
Sitting in his nowhere land.どこでもない彼だけの場所に座ってていて
Making all his nowhere plans for nobody.誰のためでもないことについて考えている。(意訳・俺)
世の中の 全てのうわさと マニュアルを 燃やしたあとで 小説を書く